バリ島に旅行で来たことのある方なら、ガイドさんなどのバリ人の名前を聞いたことがあると思います。その時、バリの人の名前は同じ名前の人が多いな、と感じた人もいるでしょう。
バリ人に名前を聞いても、フルネームで答えてくれません。というより、インドネシア人の名前に"姓"は有りません。"名"だけです。
ただ、"名"だけといっても、一語で終わらないので"姓"が有ると思ってしまいますよね。
例えば、I Wayan ××× さん。I Wayan ×××、が全部"名"です。もっと長い人もいます。
今回は、バリ人との付き合いの中で、陥りやすい名前の落とし穴について、そして落とし穴にはまらないための方法を紹介します。
目次
1 バリ人の名前の付け方
1-1 バリ人の名前とは切っても切れないカーストの話
カースト。世界史で習いましたよね。インドのカースト制度。バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラ。
バリ島はバリヒンドゥー教徒(ヒンドゥー教徒が多数派。カースト制度も有ります。ただ、歴史的背景や政治的背景のためインドの厳格なカースト制度とは異なります。
日常生活でのカースト制度の弊害は、あまり見られないようです。職業選択がカーストによって制限されることは、一部の聖職を除いてはありません。
ただ、冠婚葬祭やバリ語における敬語の使い方などで、カースト制度は生きています。
カースト上位の女性がカースト下位の男性と結婚する場合、形式上、駆け落ち婚?略奪婚?のような形をとることもあります。女性の親族は結婚式にも出席しません。それでも昔に比べれば少しは自由になったと思います。
カースト制度が残っていることを感じさせるのがバリ語。カースト下位の人が上位の人に使うのは敬語。たとえ相手が子供でも敬語を使わなければなりません。
初対面の人と話すとき、カーストはどうやって知るの?大丈夫です。バリヒンドゥー教徒なら名前でカーストがわかります!名前を聞いて、相手が上位なら敬語のバリ語を使います。
バリ人の名前は、カーストによって特徴があります。名前を見ればカーストがわかる、というわけです。バリヒンドゥー教のカーストは、
ポイント
- ブラフマナ
- クサトリア
- ウェシア
- スードラ
以上の4つに分けられます。
ブラフマナ
高僧プタンダの階級です。この職業は世襲制。このカーストの人の名前は、男性なら、Ida Bagus(イダ・バグス)、女性なら、Ida Ayu(イダ・アユ)が初めにきます。
クサトリア
王族の家系です。地域によって変わります。Anak Agung(アナック・アグン)、Dewa Agung(デワ・アグン)、Tjokorda(チョコルダ)が初めにきます。
ウェシア
貴族階級。Gusti(グスティ)、Gusti Agung(グスティ・アグン)、Dewa(デワ)、Ngrah(ングラー)などが初めにきます。
スードラ
8割を占めるとも言われる平民の階級。上位のカーストの、最初にくる名前が称号なので、称号を持たないカーストです。
名前は生まれた順番。第一子 Wayan(ワヤン) 又はPutu(プトゥ)、第二子 Made(マデ)又はKadek(カデ)、第三子 Nyoman(ニョマン)又はKomang(コマン)、第四子 Ketut(クトゥッ)。第五子以降は、第一子の名前から繰り返し。
もちろんこの後にも名前は続きます。そして、男性は I(イ)、女性はNi(ニ)が頭につきます。I Wayan ×××なら男性、Ni Wayan ○ ○ ○なら女性の第一子(又は第五子)です。
1-2 ワヤンさんがいっぱい
バリ人に名前を聞くと、「ワヤンです」「マデです」と答える人が多い。フルネームで答える人はまずいません。
人の名前、ましてや外国人の名前を一度で覚えるのは難しい。
それに加えて何人も同じ名前だったら。
一度きりの付き合いならいいですが、ご近所さんだけでも何人もワヤンさんがいたらどうしますか?
昔、私が旅行者だった頃、お世話になった人の名前がマデさん。その頃はまだ携帯電話がなく、近所の呼び出しでした。
電話してマデさんと話したくても、「マデはいっぱいるから」と、結局連絡がつきませんでした。
その頃はまだ、バリ人の名前のことなど何も知らず、ちゃんとフルネームを聞いておかなかったのが原因です。
まあ、普通そういう状況なら相手の方からフルネームを言ってくれるのでしょうが、バリ人にそんな気遣いを望むのは高望みです。
バリで生活する上で、バリ人との付き合いは欠かせません。名前はフルネームでちゃんと聞きましょう。
バリ人の名前を聞く時の秘訣
もちろん、名前を聞くときは普通に聞いてください。そして、「フルネームは?」、「なんて呼んだらいい?」と聞いてください。
"フルネーム"はインドネシア語で、Nama Lengkap(ナマ ルンカップ)です。早口で言われてわからなければ、書いてもらいましょう。
名前も縮めます
バリ人の会話を聞いていると、短い名前でも縮めます。"コマン"さんなら、「マン!」。"イダ・アユ"さんなら「ダユ!」と呼ばれます。慣れないうちは混乱します。
1-3 名前で宗教がわかる
インドネシアはイスラム教、バリヒンドゥー教、キリスト教、仏教徒など、色々な宗教の信者がいます。それぞれの宗教で名前の特徴があります。
バリヒンドゥー教徒の名前はすでに説明しました。イスラム教徒の名前は、日本人でもなんとなくわかりますよね。
男性は、アプドゥル、アクバル、アリ、ムハマドなど。聞いたことがありますよね。女性は、アイシャ、ファティマ、ハジャルなど。女性の名前はあまりおなじみではないかも。
キリスト教徒の名前は、欧米系の名前が多いです。
名前を聞くことはコミュニケーションツールだ!
初対面の人に名前を聞いて、その人がワヤンさんや、アクバルさんだったら、「バリ人なんですね」「イスラム教徒なんですね」と言うと、なぜかびっくりして、そしてとても嬉しそうにしてくれます。
そうなればしめたもの。コミュニケーションは成功です。フルネームを聞いたり、出身地を聞いたり、話は広がっていきます。
私はこの方法で、インドネシア語の会話を勉強しています。
2 アリアスの落とし穴
2-1 アリアスって何?
アリアス(Alias)は、いわゆる通称、あだ名です。日本人なら、初対面のときからあだ名で自己紹介などありえませんが、インドネシア人はこのアリアスを使うことが多いです。
バリ人もこのアリアスを使います。なぜ元々混乱しやすいのにアリアスまで。「エディです」と言われたら、もはや何人なのかもわかりません。
しかも一人の人を呼ぶ時、「コマン!」「マン!」「エディ!」など、人によって色々な名前を使うので、ますますわかりにくい。
こう言う状況の中で、日本人は落とし穴にはまってしまうことがあります。日本人は親しくもない、しかも初対面で、あだ名を使うなどと夢にも思いません。
しかし新聞記事にもアリアス×××、本名○○○と出るくらい、アリアスは浸透しています。
私にも長い付き合いの人の本名を、最近初めて聞いた、という経験は多数。でも、フォーマルな場ではフルネームが使われます。
友人の関係者ということで参加した、小児科学会のレセプションで、友人が来るまで会場に入れなかったこともあります。その友人がフルネームで登録していたため、アリアスしか知らなかった私は友人の名前を特定できなかったのです。
バリ人の友人が予約してくれたレストラン。フルネームで予約されていると、困ることもあります。
誰かを紹介してもらった時も同様です。「○○さんから紹介してもらいました」と言っても、「⁇」ということもあります。
彼らはその時の気分で名前を使い分けるので、確認してくださいね。日本では考えられない、名前に関する落とし穴。ご注意ください。
2-2 アリアスは突然変更される
アリアスは親がつけたり、名前の短縮型だったり様々です。ある程度の年齢になると、自分で気に入ったアリアスに変える人もいます。不運が続いて変える人も。
バリ人はアリアスを変えたからといって、知り合いに通知なんかしません。電話番号を変えることもしょっちゅうですが、日本人のように変更の通知をすることはありません。ある日突然、連絡が取れなくなることもしばしばです。
バリ島では、何か変更しても通知することはないものだ、ということを覚えておいてくださいね。
3 敬称はつけましょう
敬称の付け方は簡単です。日本人なら余程仲が良くない人以外は、○○さん、と言いますよね。
バリ島でも敬称は付けます。でもそれは相手が立場が上の場合です。私は子供以外で既婚者であろう歳の人には、必ず敬称をつけるようにしています。
付け方は簡単。男性なら、Bapak(バパッ、直訳はお父さん)、女性ならIbu(イブ 直訳はお母さん)です。
普通の会話なら短縮して、Pak.(パッ)とBu.(ぶ)です。男性のワヤンさんなら、Pak. Wayan(パッ ワヤン。女性なら、Bu.Wayan(ブ ワヤン)でOk。
付けなくても問題はありませんが、私はつけるべきだと思っています。
まとめ
バリ人のお名前。別に大した落とし穴じゃない、と思われるかもしれませんが、インドネシア語がまだまだだと会話が混乱したり、誤解を生じたりすることもあります。
バリ島移住で些細な問題をこじらせるのは、実はこの種の小さな誤解なのです。
名前は個人のアイデンティティの最たるもの。敬意を持って、お互い大切にしましょう。